スイート・バレンタイン・ギフト - 2/2

「んっ、んんぅっ……!」
 黒色で統一された部屋で、白い肢体が跳ねる。
 ベッドの上で両肘、両膝を突いたエーデルガルトに背後から覆い被さり、ヒューベルトは彼女の背中に口づけを繰り返していた。薄い皮膚をきつく吸い上げて、処女雪のような肌の上にわざと赤い花を咲かせていく。今もまた、彼女の目の届かぬところに咲いた小さな花に舌を這わせていた。ざらりとした舌の感触に、エーデルガルトはしなやかな肢体をふるりと震わせるのだった。

 それと同時に、前へと回した片手でやわらかな膨らみを揉みしだく。骨張った手の中で白い乳房は面白いように形を変えた。時折指先で頂の蕾を引っ掻くかのように刺激を与えれば、彼女は声を堪えて腰をくねらせる。丸い尻が跳ね、男が纏うガウンの下で存在を主張し始めていた昂ぶりに押し付けられるのだった。
 ヒューベルトは小さく息を吸った。己の手によって乱されている彼女には背後の男の様子を窺う余裕などないだろうが、眼前の魅惑的な肢体に、身体の中心は今やはっきりと反応を示しているのだ。しかし、呼吸を整えてその存在を意識に外へと追いやって、エーデルガルトの背を大きな手で撫で上げた。そうして、今度は反対に背骨に沿って上から下へとゆっくり舌を這わせていく。

「なっ……!?
 慌てた声が上がり、エーデルガルトが後ろを振り返った。
 彼女の腰を両手で捕らえたヒューベルトがそれを引き上げ、自身に向けて尻を突き出しているような姿勢を取らせる。
「何をしている、のっ――、ヒュー、ベル……トッ……!」 羞恥で顔を朱に染めたエーデルガルトを一瞥するが、男は無言のまま大きな手で双丘を割り開き、舌を差し入れたのだった。

――!!
 尖らせた舌先で蜜壺の口にやわらかく触れると、彼女の身体はびくりと大きく波打った。
「やっ、あ…………!」
 唇から零れ落ちる声は、ひどく甘い。
 秘裂を包む花弁を舌の先端で擽ると蜜壺の奥から愛液が溢れ出し、エーデルガルトの太股を伝っていく。彼女の秘所を丹念に弄っているヒューベルトの唇やその周りをも濡らしていくのだった。

「一度、達しておくといいでしょう」
 唇に付いた蜜を舐め取り、そう告げた彼は、蜜壷に指を差し入れた。
「あっ、うぅっ――!」
 男の指先がエーデルガルトの悦いところを掠めたのか、彼女は身体を捩って甘く啼く。
「ここがよいのですね?」
 ヒューベルトの長い指が、蜜を掻き出すかのように柔らかい肉壁を擦る。彼であればどこに触れられても気持ちがいいのだけれど、違う。先ほどのような鮮烈な快感はなく、物足りない。

「んっ、ちがっ……
 エーデルガルトはもどかしげにもぞもぞと腰を揺らめかせた。
「おや、そうでしたか。では――
……そこ、もっ……ちがう、のっ」
 わざと、最初に感じたところを外して触れているとしか思えない。菫色の瞳にうっすらと涙を湛えて、彼女は振り返る。

「貴方ったら……本当、にっ……意地が悪い、わっ……!」
 彼女自身は非難を込めているつもりだが、投げつけられた言葉の礫も、この男にとっては痛くも痒くもない。
 だが――
 上気した頬、快楽に溶けた瞳――、さらなる快感を期待するかのように突きつけられた丸い尻は、男の欲を掻き立てるのに充分であった。知らず知らず喉が鳴る。

「でしたら――
「あっ――、そこっ、そこ、がっ……きゃあぁっ――!」
 指先が、彼女の強く感じるところを攻め立てる。それと同時に、秘唇の上にある花芯まで刺激され、エーデルガルトは悲鳴じみた嬌声を上げた。手近にあった枕を掴み、強すぎる快感をやり過ごそうとするも、ヒューベルトはそれを許してくれない。

 長く、尾を引く啼き声の後に彼女は果て、その肢体はシーツに沈んだ。
 絶頂の余韻の只中にあって、荒い呼吸を繰り返すエーデルガルトの背後で、ヒューベルトはベッドサイドのチェストに手を伸ばした。彼らしからぬ急いた様子で抽斗を引き、避妊具を取り出す。もどかしそうにガウンを脱ぎ捨て、それを手早く装着した。
――ッ、まだっ……イったばかり、なの、にぃっ……んんぅっ」
 ひくひくと快感に戦慄く秘裂に宛がわれた質量に、エーデルガルトは男を振り仰ぐが、抗議の声は口づけによって封じられた。

「申し訳ありません、エーデルガルト様。ですが、私ももう――
 彼女の唇を解放し、鼻先が触れ合うくらいの距離でヒューベルトは囁く。掠れた声に潜む艶めいた響き、彼女を見つめる瞳に揺らめく情欲の色に、エーデルガルトは目を伏せた。長い睫が影を落とす。
……きて」
 羞恥に打ち震えながらも、男を誘う。ヒューベルトは今すぐにでも激しく腰を打ち付けたい欲求を制し、ゆっくりと己の昂ぶりを沈めていった。背後から貫かれて、エーデルガルトは白い喉を晒し、甘い息を吐き出す。柔らかい媚肉は男の屹立を包み込み、薄い膜越しにも快感をもたらす。ヒューベルトもまた深く息を吐き出した。

「もう、大丈夫。……動いて」
 振り返ることはなく、か細い声がそう指示する。自ら行為を強請るように思えてしまうのか、長い髪の間から覗く耳は朱に染まっていた。反面、これからのことを期待してか、彼女の秘所はきゅっとヒューベルトを締め付けてくるのだった。
「承知しました」
 額を枕に押し付けているエーデルガルトには見えないが、男の口角がわずかに持ち上がる。彼女の言葉を合図に、ヒューベルトは徐々に律動を開始した。

「エーデルガルト様っ、ご命令、をっ――
 自らの陰茎を出し入れして彼女の内壁を擦り上げながら、ヒューベルトは言う。
……め、いれ……ああっ、んっ――……?」
 男の意図が掴めず、エーデルガルトは同じ言葉を繰り返すも、その最中にも男の先端が悦いところを掠めて息が乱れる。大きな手が背後から前に回され、律動に合わせてふるふると揺れている胸の蕾を指の腹で押し潰した。

「んんっ――それっ……!」
「それ、とは――?」
 あえて彼女に言わせようとする意地の悪い言葉に、エーデルガルトも男の意図を理解した。恥ずかしさに唇を噛みしめる。すると、ヒューベルトは手を引っ込めてしまったのだった。
………………む、ねをっ」
――が、どうかしましたか」

 腹の中を埋め尽くしている男のものがもたらす快感と、欲を曝け出す恥ずかしさ、しかし、そうしなければ望むものが与えられないという渇望――それらが渦巻いて、頭が沸騰しそうだ。
「さっきみたいに、胸を弄ってっ」
「畏まりました――
 男は再び彼女の胸に触れた。二カ所に同時に触れられていることでそれぞれの箇所で起こる快感が繋がって、身体中を駆け抜けていく。エーデルガルトの秘所が強く男のものを締め上げ、ヒューベルトは低い呻き声を漏らした。

――他、には」
 なんとかやり過ごして、さらなる命令を促す。すると、エーデルガルトは振り返って、切なげな眼差しで男を見上げた。
「あ、なたのっ……貴方の、好きなようにっ、してっ」
――

 ヒューベルトは音がするほどに強く奥歯を噛みしめた。そうして、両手でエーデルガルトの腰を掴むと、抜けそうなほどギリギリまで陰茎を引き、次の瞬間、それを一気に最奥まで押し込んだ――
「あああああっ――!」
 甲高い嬌声が上がる。ヒューベルトはなおも激しい抽挿を繰り返し、結合部からは淫猥な水音が響いた。
「ヒュー、ベルトッ……イっちゃう、イっちゃ……うぅ――!」
「私、もです――エーデルガルト様……!」

 ベッドのマットレスに突いた白い小さな手に、骨張った大きな手が重ねられ、指が絡められる。
 目の前が明滅を繰り返し、やがて白く眩い光が視界を覆い尽くす。互いに感じる相手の体温に安堵を覚えながら、二人は手に手を取って悦楽の波に自ら身を投じたのだった。

   ◇   ◇   ◇

 一月後。
「それにしても意外だわ。仕事人間の貴方が、ホワイトデーだからといって予定を空けていたなんて」
 エーデルガルトは優美な仕草でティーカップをソーサーに戻すと、からかうように笑った。向かいの席ではヒューベルトもまたコーヒーを口にしていた。

 二人がいるのはこの街で人気の高いレストランだった。特にデザートのスイーツの評判が高く、日頃から女性客で溢れかえっているという。そういった情報をどこで仕入れてきたのかはわからぬが、甘い物を好むエーデルガルトのために、ヒューベルトが彼女に内緒で予約を入れていたらしい。この日はホワイトデーとあってか、彼らの周りのテーブルもカップルばかりである。

 ヒューベルトは意味ありげに――どことなく意地の悪い笑みを見せた。
「ええ。先月は結構なものを頂きましたから」
――ちょっと!」
 場所が場所であるだけに声を潜めるが、エーデルガルトは目の前の男を睨み付けた。一ヶ月前の夜のことが思い出されて、顔が熱を持つ。

「おや、チョコレートのことですが?」
 彼女が何を思いだしていたのか、正確に把握しているのだろう男は、あくまでも涼しげな顔だ。
……もう」
 エーデルガルトは気持ちを落ち着かせるためにも、香り高い紅茶を飲み干したのだった。

 レストランの外に出ると、三月半ばとはいえやはり夜は冷え込む。
「この後なのですが――
 エーデルガルトに合わせて歩きながら、ヒューベルトはごく自然に口を開いた。
「ホテルを取ってあります」
……本当に手回しがいいのね」

 エーデルガルトは傍らの男を見上げると、蠱惑的に笑った。そうして、男の腕に自身の腕を絡める。すると、ヒューベルトも彼女の腰を抱き寄せた。
「では、参りましょうか」
「ええ」
 そうして寄り添いながら歩く二人は、どこからどうみても恋人同士の男女なのであった。