ヒューエデSS詰め合わせ - 2/3

背中にキス

 限られた刻で忙しなく熱を交わし合う。何事においても手抜かりのない男はエーデルガルトの身体の隅々にまで触れ、彼女は幾度も高みへと押し上げられたのだった。今はその熱も去って、心地よい気怠さの中に揺蕩う。

「ヒューベルト」
 エーデルガルトはこちらに向けられた、広い背中に向けて声をかけた。しなやかな筋肉をつけた背中だ。彼はすでに下衣を身につけ、次に自ら床に打ち捨てたシャツに手を伸ばそうとしていた。
「どうなさいましたか、――……
 従者が振り返るよりも早く、起き上がったエーデルガルトは子どもの戯れのように後ろから抱きついた。こちらは一糸纏わぬ姿である。二人の間でやわらかな乳房が押し潰され、形を変える。

「お離しください、エーデルガルト様。でないと――
……でないと?」
 彼女はころころと笑った。しかし、素直に身体を引いた。彼は極秘の任務を負ってこれから帝都アンヴァルを出立する予定であった。
「ねえ、ヒューベルト」
 女の細い指先が男の背に触れる。何か、文字のようなものを描いて、エーデルガルトはその広い背中に口づけた。男は喉の奥で小さく笑う。

 拾い上げたシャツに袖を通すと、ようやくヒューベルトは主の方を振り返った。大きな手が壊れやすいものに触れるかのように、そっと白い頬に当てられた。
「エーデルガルト様はもう少しお休みください」
「ええ。そうさせてもらうわ」
 主が緩慢な仕草で再び身を横たえたことを確認した従者は、隙のない身のこなしで立ち上がり、寝所を出て行く。

 エーデルガルトの指先が残した言葉を、彼女の唇が紡ぐことは終生なかったと伝えられている。
 しかし、時には人の口の端に上ることのない真実もあるものだ。